最終更新日:2022/09/03 (公開日:2019/03/22)
明るい災害の話をしよう。vol.1 きっかけ食堂〈前編〉
白川
晴香ちゃん、東日本大震災のときって、まだ中学生だよね?
奥田
はい。中学2年生で岐阜に住んでいたので、テレビで観ていたくらいでした。
白川
きっかけ食堂を始めたきっかけ、つまり、東北に関わったきっかけはなんだったの?
奥田
それが、高校2年生のときの、美術の授業だったんです。
絵本をつくって、福島に送るっていう授業があったんですけど
現地に行きたい人は連れて行ってあげるよって、先生が言ってくれたのがきっかけで。
絵本をつくって、福島に送るっていう授業があったんですけど
現地に行きたい人は連れて行ってあげるよって、先生が言ってくれたのがきっかけで。
白川
え、それはすごい先生だね。
奥田
そうなんです。
でも、じつはもともと「東北のためになにかしたい」って思っていたわけじゃなくって。
でも、じつはもともと「東北のためになにかしたい」って思っていたわけじゃなくって。
白川
そうなんだ。
奥田
わたし、絵本が好きで、ストーリーも仕掛けも、とてもこだわって作ったんです。
だからつくっているうちに、手放すのが嫌になっちゃって(笑)
だから、この絵本をちゃんと渡したいなと思って、東北に行くことにしました。
だからつくっているうちに、手放すのが嫌になっちゃって(笑)
だから、この絵本をちゃんと渡したいなと思って、東北に行くことにしました。
白川
じゃあ最初は、支援しようと思って行ったわけじゃなかったわけだ。
奥田
はい。
そこで、その絵本を、福島の子どもたちに読み聞かせをする機会があったんです。
でも、福島の子どもたちにどう接したらいいか、どう向き合えばいいか、
ずっと悩んでいたんですけど、会ってみるともう、怪獣みたいで(笑)
そこで、その絵本を、福島の子どもたちに読み聞かせをする機会があったんです。
でも、福島の子どもたちにどう接したらいいか、どう向き合えばいいか、
ずっと悩んでいたんですけど、会ってみるともう、怪獣みたいで(笑)
白川
わかる。スケールはちいさいけど、立派な怪獣だよね(笑)
奥田
そのときに、「被災した子どもたち」っていう思い込みが、自分のなかにあることを知りました
そこから、私の東日本大震災と向き合うことは、はじまったのかも。
そこから、私の東日本大震災と向き合うことは、はじまったのかも。
白川
もともと、支援が目的じゃなかったから、向き合い方なんて考えないもんね。
まさに、呼ばれて行って、その経験が今やってる「きっかけ食堂」へとつながったの?
まさに、呼ばれて行って、その経験が今やってる「きっかけ食堂」へとつながったの?
奥田
そうなんです。私の前の代表の方が「きっかけ食堂」をスタートしたんですけど、
はじめて参加したときは、ギャップにびっくりしました。
はじめて参加したときは、ギャップにびっくりしました。
白川
へえ。それは、どういうの?
奥田
大学に入ってからも、東北のスタディツアーとか、
震災のイベントには足を運んでいたんですけど、
なんていうか、こう、まじめすぎるというか、堅いというか…
震災のイベントには足を運んでいたんですけど、
なんていうか、こう、まじめすぎるというか、堅いというか…
白川
ああ、わかる。バスの中とかピリピリしてるもんね。
奥田
もちろん、お亡くなりになられた方もいるので、
ふざけたりするのはいけないとは思うんですけど。
でも、どうしても震災に関わる何かって、重たい、真面目すぎる印象だったんです。
ふざけたりするのはいけないとは思うんですけど。
でも、どうしても震災に関わる何かって、重たい、真面目すぎる印象だったんです。
だから、はじめて「きっかけ食堂」に行ったとき、
「被災地支援なのに、どうしてこんなに楽しいんだろう?」ってびっくりしたんです。
白川
うん。
奥田
普通にご飯食べている人もいるし、
東北の生産者の方に、テレビ電話をしている人もいて。
東北の生産者の方に、テレビ電話をしている人もいて。
東北へ、まじめな関わり方ばかりしてきたけど、
こんな関わり方もあっていいよね、と思えるようになりました。
( 毎月11日に開催される きっかけ食堂の様子 )
白川
たしかに。楽しい関わり方が、すこしはあってもいいよね。
災害の話って、どこか重たく聞こえるし、重たく聞かなきゃいけない空気がある。
災害の話って、どこか重たく聞こえるし、重たく聞かなきゃいけない空気がある。
奥田
あります。
だから、私が引き継いだ後も、楽しい雰囲気のまま、続けていこうと思いました。
堅苦しくなりすぎず、一緒にご飯を食べるだけ支援になる、みたいな。
だから、私が引き継いだ後も、楽しい雰囲気のまま、続けていこうと思いました。
堅苦しくなりすぎず、一緒にご飯を食べるだけ支援になる、みたいな。
白川
ああ、いい。「食べる支援」って。いいよね。
奥田
めっちゃいいです!!私、食べるの大好きなんで(笑)
白川
どうして、「食べる支援」っていいんだろう?
奥田
まじめすぎないっていうのと…
あとは、災害の話もそうですし、共通の話題がなくても、
食べることでおんなじ感情になれるんです。
あとは、災害の話もそうですし、共通の話題がなくても、
食べることでおんなじ感情になれるんです。
白川
おお。
奥田
災害のことでシェアできることって、きっと悲しみとか教訓が多い気がします。
けど、おいしさをシェアできる歓びというか…
イベントではなく、食卓だからこそなのかも。
けど、おいしさをシェアできる歓びというか…
イベントではなく、食卓だからこそなのかも。
白川
「おなじ食卓につく」って、大切なポイントだね。
奥田
あとは、ほんとうに食べ物がおいしいんです。
私たちの料理の腕というよりは、食材がおいしい。
私たちの料理の腕というよりは、食材がおいしい。
白川
うまいよねえ、東北。
奥田
「こんな想いでやられていて〜」とか、
「このまえ行ったときは袋いっぱいのお土産を持たせてくれて!」とか、
「このまえ行ったときは袋いっぱいのお土産を持たせてくれて!」とか、
料理を出すときに、できるだけ生産者の方の人柄とか、
ちょっとしたエピソードも一緒にお出しするんです。
白川
それ、おいしさの秘訣だね。
日本人って特に、「知識もいっしょに食う」みたいなところあるじゃない。
日本人って特に、「知識もいっしょに食う」みたいなところあるじゃない。
奥田
……どういうことでしょう?
白川
普通にサンマを出すよりも、「〇〇で獲れたサンマです」とか、
「東北でお世話になっている〇〇さんが送ってくれたサンマなんです」のほうが、
どこかおいしい印象がしない?
「東北でお世話になっている〇〇さんが送ってくれたサンマなんです」のほうが、
どこかおいしい印象がしない?
奥田
あ、しますします!
白川
日本人特有なのかはわからないけど、
そうした知識もいっしょに食べるというか、
純粋なおいしさ以外のところにも、
おいしさを感じているところがある気がする。
そうした知識もいっしょに食べるというか、
純粋なおいしさ以外のところにも、
おいしさを感じているところがある気がする。
奥田
「おいしい以外のおいしさ」ですか。
白川
そうそう。
そういうのをシェアできるんだから、そりゃあ楽しいよね。
そういうのをシェアできるんだから、そりゃあ楽しいよね。
奥田
おいしいし、楽しい。
ハッピーな災害との向き合い方ですよね。
ハッピーな災害との向き合い方ですよね。
白川
食べる支援っていうより、おいしい支援だね(笑)
白川
そういえば、今回の特集のコンセプトが「災害との向き合い方」なんだよね。向き合い方ってすごいざっくりだと思うんだけど、とりあえずこのまま投げてみようかな(笑)
奥田
丸投げ(笑)……あ、逆に、烈さんのなかであったりします?
白川
投げ返された(笑)
そうだなあ、災害との向き合い方って、やっぱり怖さを煽ったりとか、苦しい体験からの教訓が多いんだよね。そういう経験をされた人たちの教えはもちろん身にしなきゃいけないとは思うんだけど、そういうのばっかりじゃあ、ちょっと窮屈だよね。
そうだなあ、災害との向き合い方って、やっぱり怖さを煽ったりとか、苦しい体験からの教訓が多いんだよね。そういう経験をされた人たちの教えはもちろん身にしなきゃいけないとは思うんだけど、そういうのばっかりじゃあ、ちょっと窮屈だよね。
奥田
そうですね。実際、私がきっかけ食堂に出会う前に感じていたのは、そんな空気感でした。
白川
いわゆるピリピリとした話も大事だけど、取っつきやすいような話や、明るい話もあっていいと思う。窮屈だと、しんどくなっちゃうもんね。実際に、振り絞って前を向いてやっている人もいる。
奥田
はい。じつは「きっかけ食堂」は、そもそも災害の話をしなくていい場なんですよ。
白川
そうなんだ?
奥田
はい。「東日本大震災のことを話さなくてもいい場所」というのが、テーマでもあるんです。東北に行ったことない人たちでも、置いてけぼりにならないように、話題もなんでもいい。就活の話でも、最近あったことでも、ほんとになんでも。
白川
じゃあ、みんなふつうにご飯を食べに来る。
奥田
そうなんです。
大切なのは、災害の話をすることではなく、「共通の話題がなくても、同じものを食べることで、同じ感情になれる」ことだと思うんです。
大切なのは、災害の話をすることではなく、「共通の話題がなくても、同じものを食べることで、同じ感情になれる」ことだと思うんです。
白川
それ、おもしろい!「共有」だね。
奥田
そうです!同じ食卓につく食堂だから、できることなんです。
白川
ただ同じご飯を食べることが、同じ食卓につくことじゃないもんね。それ、すごい良い仕組みだなあ。
奥田
そうやって共有することで、たまたまぽろっと出た災害の話や思っていることも、伝えたりとかじゃなく共有する雰囲気になるんですよ。「伝える」と「共有する」じゃ、受け容れ方が違います。
白川
たしかに。キャッチボールだと、Qに対してAが返ってくるけど、共有だと「いっしょに悩もう」になるね。
奥田
もしかすると、それが私の、「きっかけ食堂」の、災害に対する向き合い方かもしれません。いっしょに考えよう、という向き合い方。
白川
「いっしょに」ってところが肝だね。ひとりじゃできない。
奥田
もちろん、簡単ではないですけど。伝えたい想いは、関われば関わるほど大きくなっていくので…
白川
そこがむずかしいよね。
伝えたい想いが10あるとしても、きっかけ食堂では0の場にしないといけない。
伝えたい想いが10あるとしても、きっかけ食堂では0の場にしないといけない。
奥田
じつは、悩んだ部分でもあります。東北に興味がない人は、災害の情報とか話されても面倒だろうし…でもやっぱり伝えたいことはたくさんあって。その葛藤の繰り返しでした。
白川
そのすき間は、どうやって埋まったの?
奥田
そもそもを考えると、きっかけ食堂に来てくれただけで支援になってるんですよ。生産者の方から買った東北の食材を使っているわけですから。そのことに気付いてから、私の伝えたい想いではなく、「その人にとってどういう関わり方がベストなのかな?」って一緒に考えるようになりました。
白川
「伝える」から、「共有」に変わった瞬間だ。
奥田
「伝える」を聞く側からすると、災害の話ってどこか重苦しいんです。
白川
うん。ちょっと身構えちゃう。
それが自然とできたり、明るいままできるのは、きっかけ食堂ならではなのかもね。
それが自然とできたり、明るいままできるのは、きっかけ食堂ならではなのかもね。
奥田
烈さんよかったら、ぜひ今度遊びにきてください。ぜひ肌で感じてみてほしいなあ。
白川
うん、行こう。おれ、東北のサンマ大好きなんだ(笑)
奥田
サンマ以外も美味しいので、安心してください(笑)
災害の話をしなくてもいい、災害支援を行なう「きっかけ食堂」さん。
同じ食卓につくからこそ、ひとりでじゃなく、みんなで一緒に考えることができる。
そんな「きっかけ食堂」さんは、毎月11日に、京都・東京・名古屋・仙台で開催されています。
お近くの方はぜひ、美味しい東北のご飯を食べに行ってはいかがでしょう?(もしかすると、白川もひっそりいるかもしれません)
(文・構成:白川 烈 写真:小林舞花)