最終更新日:2022/09/02 (公開日:2019/08/02)
BCPは製造業だからこそ対策すべき理由と策定のポイントを解説
災害発生時、従業員や顧客など企業の関係者の命を守るための「防災」の取り組みを行っている製造業企業も多いでしょう。
近年、従業員や顧客だけでなく、企業そのものの存続も守るために「防災」のほか「BCP」の重要性も問われるようになりました。
製造業関係者や経営者の方の中には、「BCP」という言葉を聞いたことがあるけれども、防災と何が違うか分からない、BCPへの対策をする余裕がないという人も多いかもしれません。
けれども、製造業だからこそBCPを策定し、災害を始めとした事業を停止せざるを得ない要因への備えをしておくのが重要なのです。
ここでは、BCPとは何かに加えて、製造業だからこそBCPを策定するべき理由と具体的な策定ポイントをご紹介します。
これからBCP策定を検討している製造業関係者の人も、ぜひ参考にしてください。
目次
製造業も含めて企業が対策しておくべき「BCP」とは
BCPとは、日本語で「事業継続計画」と訳されます。
具体的には、災害や事故など、事業を停止せざるを得ない事象が発生した場合でも事業の停止を防ぐため、または停止せざるを得ないときでもできるだけ迅速な復旧を目指すための計画がBCPです。
災害や事故への備えといえば「防災」があります。
けれども、BCPと防災は似てはいるものの、根本から違う性質があるのも覚えておきましょう。
BCPと防災との違い
防災は主に災害に対する備えを指します。
さらに、災害発生時に従業員や関係者の命や企業の財産を守るのを目的としています。
そして、企業や事業所において防災に関する担当者が設定されていて、防災に関する取り組みは主に担当者が中心となって進められることになります。
BCPは、事業を停止せざるを得ない要因すべてに対して、あらかじめ策定しておく計画です。
事業を停止せざるを得ない要因には災害も含まれますが、防災が災害対策と限定しているのに対して、BCPは災害を含めたすべての要因を対策の対象としています。
また、BCPは従業員や関係者の命だけでなく、企業と関連企業の存在そのものも守る目的も持っています。
事業とはまさに企業、そして関連企業にとって命ともいえるものです。
事業を停止しないように、また停止してもできるだけ早く復旧を目指すための取り組みがBCPです。
そして、防災と異なり担当者だけでなく、企業と関連する人すべてで取り組むこと、という特徴があります。
なぜ製造業だからこそBCPへの対策をするべきか
実際に製造業の経営者、または役員の方のなかには「防災対策は行っているから十分ではないか」「BCPを策定するまでの余裕がない」という声も多く、防災対策は多くの企業が行っているのに対してBCPはまだ策定に至っていない製造業の企業も少なくありません。
けれども、製造業だからこそBCP対策をしておくべきと言えます。
製造業企業がBCPを策定しておくべき4つの理由が以下の通りです。
- 日本の中核を担う業種だから
- ひとつの事業が停止すると業種全体が停止する恐れがあるから
- 企業としての社会的責任を果たすため
- 危機管理ができる企業としての信頼を得るため
それぞれの理由について見てみましょう。
日本の中核を担う業種だから
総務省発表の統計によると、日本全体の企業従業員数のうち、製造業に従事する人が全体の約17%を占めていると分かります。
製造業の中には日本の経済の担う大企業も多く、製造するものは違えど日本経済を支えているといっても決して過言ではないでしょう。
日本国内で使用する家電や自動車のほか、海外への輸出も日本製品は多く行われています。
製造業の企業が事業を停止してしまうと、日本経済全体に対して大ダメージとなるため、BCPを策定し、不測の事態に備えておくのが重要と言えます。
ひとつの事業が停止すると業種全体が停止する恐れがあるから
製造業として事業を停止させてしまうと、日本経済全体がストップする可能性があるため、中核を担う業種としてBCPは策定しておくべきということが分かりました。
これに加えて、製造業はサプライチェーンによる事業がほとんどです。
ひとつの企業が止まると、その製造業の流れすべてが止まってしまう可能性も高くなっています。
製造業として事業全体の流れを止めないためにも、製造業だからこそBCPを策定し、事業全体のストップを未然に防がなければいけません。
企業としての社会的責任を果たすため
製造業も含めて、企業としての社会的責任を果たすためにもBCPを策定するべきと言えます。
企業には事業を通じて社会に貢献するという役割を持っていますが、同時に働いている従業員や関係者の命や財産を守る責任も課されています。
企業としての存在はもちろん、従業員や関係者全体の命を守り、最小限の被害に食い止めるため防災や減災の取り組みと同じく、BCPを策定しておくのも必須です。
危機管理ができる企業としての信頼を得るため
最後に、BCPは企業としての危機管理の手法のひとつでもあります。
企業としては、企業の存続に関わるさまざまなリスクに対して、対応できる「危機管理能力(リスクマネジメント能力)」を身に着けておかなければいけません。
BCPを策定している企業であれば、事業を停止する要因への危機管理能力がある、ということの証明になります。
よって危機管理能力のある企業として、取引先や関連企業、社会へ対外的な企業の信頼として示すこともできます。
製造業企業がBCP対策をするうえで覚えておきたいポイント
実際に製造業企業がBCP対策をする場合に、覚えておきたい製造業ならではの3つのポイントは以下の通りです。
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- 自社だけでなく関連企業も含めた取り組みを行う
- IT技術を活用する
- 収益とのバランスを考えて策定する
自社だけでなく関連企業も含めた取り組みを行う
製造業は自社のオフィスや工場だけでなく、サプライチェーンも含めた関連企業や施設、関係者も含めてBCPを策定するのが重要となります。
例えば災害や事故などの規模によっては、自社工場が使えず同業他社の工場で代替生産を行う、といった手法をBCPに取り入れる必要性も出てきます。
自社の力のみでは解決できない災害や事故などの要因にも対応するには、日ごろから同業他社とのデータや資材の共有なども重要になってきます。
必ず関連会社との連携をBCP策定のうえで盛り込んでおきましょう。
IT技術を活用する
製造業でBCP策定を行うには、IT技術を上手に活用することも求められます。
主にBCP策定において有効なIT技術の例として、以下のものを説明します。
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- システムのクラウド化
- 紙媒体のデータ化
- 電話やメール以外の連絡ツールの導入
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システムのクラウド化
製造業では販売や生産管理などを基幹システムで行っていることも多いです。
基幹システムは営業や販売を担う事務所と、製造や出荷、在庫管理を担う工場などの施設で共通して使用するシステムで、企業独自のものが構築されていることも多いでしょう。
災害や事故、システムダウンなどで基幹システムが停止してしまうのも、事業が停止する要因と言えます。
この場合、あらかじめ基幹システムをクラウド化しておけば、事務所や工場などの決められた端末以外からも、いつでもどこでもアクセスが可能になるのです。
よって、災害や事故などで事務所や工場が被災したとしても、基幹システムが動かせるため事業継続につなげられます。
紙媒体のデータ化
IT技術として代表的なのが紙の媒体をデータにすることです。
事務所や工場などの施設に紙として保存してある媒体は、災害や事故などで施設が被災すると、紙媒体そのものも消失してしまう可能性があります。
これをあらかじめデータとして保存し、同じくクラウド化してどこでもアクセスできるようにすれば、物理的なデータの消失を防げます。
電話やメール以外の連絡ツールの導入
災害時、電話やメール回線は混線してしまい、従業員や関連企業と連絡がつかない場合があります。
従業員の状況確認のうえでも、電話やメール以外の安否確認メールやチャットツールなどを導入しておけば、災害時にも安定的な連絡手段として使えるでしょう。
収益とのバランスを考えて策定する
製造業が事業を停止しないようにする方法のひとつに「日ごろから在庫を抱えておく」方法があります。
これは防災における備蓄と同じく、災害や事故などで製造ができなくなった場合でも、復旧までに在庫で対応できるため、事業の停止を防げるメリットがあります。
ただし、在庫を抱えるにはそれだけの維持費や管理費などのコストがかかることになります。
また、防災の備蓄品と同じく経年によって品質が損なわれる製品の場合は、期限に注意しながら備蓄を行うローリングストックをする必要もあります。
BCP策定の中でも在庫に関しては、コストとのバランスを考えたうえで取り入れるようにしましょう。
BCP対策を行い製造業としての責任を果たそう
製造業は日本の中核を担う産業であることや、ひとつの事業所や工場が止まってしまうと業種全体が止まってしまうリスクがあるため、優先的にBCP対策をしておくべき業種と言えます。
BCPに関するノウハウや資金不足のため、なかなか実際の策定までに至らない場合でも、まずはできる範囲でBCPを策定しておきましょう。
BCPはただ策定して終わりでなく、訓練と改善のサイクルによって徐々にリスクに強い企業として成長するのが重要と言えるからです。
ポイントを踏まえてBCPを策定しておけば、製造業として社会的責任が果たせるだけでなく、危機管理ができる企業としての信頼につながります。
製造業だからこそ、日本全体の経済を留めないためにBCPについて検討してみましょう。