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最終更新日:2022/09/03 (公開日:2020/02/01)

[生き抜く知恵]vol.6 歴史

滋賀県長浜市のとある場所にある、生き抜く知恵の実験室WEEL。
ここでは日夜「生き抜く力」について考え、時にそれらを身につけるための実験やチャレンジや発信がおこなわれています。

「防災」って、きっとこれからの時代においては自然災害に対するだけのものじゃなく、人生そのものを生きていくための「生き抜く力」のことになる。そんな仮説のもと、生き抜く知恵を学んでいく暮らしの中で、特色あるゲストを招いての特別研修もおこなっています。

今回は、「歴史」

わたしたちが学んだ生き抜く知恵を少し、ご紹介させてください。

生き抜く知恵のかけら

・土地への「愛着」は、そこに「帰りたくなる」ための原動力となる。「帰りたくなる」場所を増やすことは生き抜く知恵のひとつ。
・歴史を紐解く行為は「なぜ」の連続であり、物事を多面的に捉える想像力の訓練にもなる。

 

知恵の持ち主は吉野 禎央さん

吉野 禎央(よしの よしお)

遊びと学びを掛け合わせたコンテンツ「戦国宝探し」や「チャンバラ合戦」で日本全国の自治体の観光部署と連携し、集客・回遊・滞在・消費の向上のための手伝いを行う。チャンバラ合戦「合戦武将隊」のメンバー。戦ネーム(チャンバラ合戦などを行う際の名前)は半兵衛。
自分で産み出したゲームで、社会課題や難しい問題を認識・理解・解決させることが目下の目標。
「難しい物事を優しく伝えること」を強みとして、全国各地でさまざまなとりくみを行っている。

 

「ゲーム」から始まった歴史への興味

大学時代にマーケティングと地域活性について学び、「面白い形で地域活性ができる方法」を探す中で「ゲーム」とリアルの場を繋ぐことを実践している会社へと就職した吉野さん。当初は歴史とは関係なく、「リアル宝探し」を行う(株)タカラッシュ!に所属し、全国各地のさまざまな土地に宝物を隠し、その場所を「ゲーム空間」へと変えていく仕事をしていたという。その後独立してからも、その仕事の根本は変わっていない。


(リアル宝探しに参加する子ども達の様子)

 

吉野さん自身、最初に歴史を「面白い」と感じたのは戦国時代の天下取りを題材にしたゲームがきっかけだった。「わくわくする」という体験を通して興味や関心をもつという自身の経験から、歴史のように一見遠く感じられることや社会にある難しい問題をゲーミフィケーション(※)という入り口を通して多くの人に触れてもらい、理解や認識をする第一歩をつくることに意義を見出しているという。現在メンバーとして従事している「チャンバラ合戦IKUSAも含め、全国のフィールドを活用してゲーミフィケーションの場を仕掛けていくことは、吉野さんにとってリアルの世界をより良く、わくわくさせていくための可能性の塊だ。


(チャンバラ合戦IKUSAのメンバーたちと)

(※ゲームの要素を他の領域のサービスに適用することで、利用者の動機付けを高めるマーケティング手法。)

 

その土地の歴史が「愛着」を生む

今回学びの場として活用した滋賀県長浜市という場所は、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)や石田三成、浅井長政といった名だたる武将が生きた土地である。浅井長政が織田信長を討とうと決した戦場である姉川(あねがわ)や、羽柴秀吉と柴田勝家の決戦の舞台となった賤ヶ岳(しずがたけ)、羽柴秀吉と石田三成が出会ったとされる古橋(ふるはし)や、賤ヶ岳の戦いで生まれた「七本槍」(しちほんやり)という名を継ぐ酒蔵など、少し意識を向けてみればあちこちに歴史の欠片が散りばめられている。

そうはいっても、それらは「歴史を学ぶ」ということの意義を見出していない人間にとっては「自分とは何の関係も無く意味の無い」ものたちだともいえる。

「歴史を学ぶということの意味は、その土地に愛着を持つひとつのきっかけになるということだと思う」

地方創生や地域活性という言葉を聞くようになって久しいが、そうした言葉がもてはやされているということ自体、その土地や地域のことを「自分には関係の無い」ものだと感じている人が未だに大多数を占めているということだともいえるだろう。特に若者や都会の人間は、移り変わっていく街並みや流動的に動き続ける価値観に慣れていて、だからこそ「その土地」に対して意識を向けるという感覚が希薄であることも多い。

意識を向けずにいれば、どんどん自分ごとからは遠ざかる。地域や人に対して、誰もが責任を負わず自治しない文化が広がっていく。実際はその土地に存在しているだけで確実に関与はしているはずなのに、まるで何の関与もしていないというような感覚になっていく。その驕りにも近い無関心の感覚は、時にその地域の「孤立」を生む要素ともなりうるのではないだろうか。

吉野さんは、これまでの活動の中で「歴史」は土地や地域に対する愛着やアイデンティティの醸成に寄与するもののひとつではないかと考えるようになったと語る。

「一番歴史を知ってほしいのはやはり子どもたち。いずれ外の地域に出るようになったとしても、自分が生まれ育った土地に根ざす歴史を幼いころから知っていればその地域がアイデンティティの一部となりUターンにも繋がることがありうるのではないか」

これはその土地に生まれ育つ子どもたちだけではなく地域へ移住してきた人間にとっても共通して言えることなのかもしれない。幼いころに醸成した土地へのアイデンティティを持たない者でも、その土地に深く根ざした歴史という「かつてそこに生きた人々の軌跡」を知ることで、その土地に対する愛着を持つための接点が生まれるきっかけになる。

愛着を持つことができたなら、きっとその場所はほかの土地とは少し違う「帰りたくなる」場所へと変化する。愛着の醸成には複数のやり方があるだろうけれど、歴史を知るということもその方法のひとつとして考えることができる。これから先、個人にとっては「帰りたくなる」場所をどれほど持っているかということはひとつのセーフティネットにもなるだろうし、過疎化の進む地域にとってはいかに「帰りたくなる」場所になれるかどうかということは非常に大きな課題のひとつともいえるのではないだろうか。

 

「諸説あり」だからこそ、想像力で補い問う力が培われる

歴史は多くの創作の題材にもされているように、誰もが手を伸ばせば触れることのできる程よい距離にある偶像だ。吉野さんが作る「ゲーム空間」がバーチャルの中ではなく現実世界に在るということと同じく、歴史は偶像でありながらそこに存在していた「現実」でもある。

「歴史は、そのほとんどが『諸説あり』という不確かなもの。新しい情報が発見されるたびに通説は更新され、事実は変化していく。だからこそ、それぞれの解釈で自由に余白を想像することが可能なコンテンツでもある」

現在見つかっている情報のピースを合わせ紡がれているに過ぎない歴史というものは、ある種「お話」や「物語」の一種でもある。たとえば聖徳太子の写真が実は別人のものだったとか、そもそもそんな人物はいなかったとか、通説として教えられている歴史は、今この瞬間にも常に更新され続けている。

研修の間、参加者からの「なぜこの人はこんな選択をしたんですか」といった質問に、吉野さんは躊躇うこともなく「それはわからないです」と答えていた。わからないという回答を聞くことで、わたしたちはそこに正解が存在していないことを知る。それは「なぁんだ」という感覚を生むと同時に、少しの安堵やわくわく感をも生み出す不思議な回答だ。断片的に判明している事実を知った上で、隙間にある「謎」を知る。そうなればまるでピースの抜けたジグソーパズルのように、そこから先はそれぞれの裁量に任された「想像」の世界になっていく。誰もまだ正解を持っていない問いに、全員が同じ地点から挑んでいくことができる。

「基本的に、歴史は勝者にとって都合の良い形で語り継がれている。勝者が自分をより良く見せて、より偉大な人物であると示すための書き換えは大体のものに行われていると考えてもいいのではないか。歴史を読み解くということは、『なぜ』を複数持ち続け『なぜ』を楽しむことともいえるかもしれない」

人物に対しても、エピソードに対しても、事象に対しても、それが「人」の生きた軌跡である限り、その点の向こうには多数の恣意や偶然が連なっている。

歴史を知るということは、行間を読み、想像力を働かせて物事を見るということの訓練ともなるとはいえないか。生きていく中で数多の情報や意見に触れて「決断」を重ねていくわたしたちにとって、今見えている出来事の欠片からその向こう側や「なぜ」を想像で埋めていくということは、実は大きな生き抜く知恵といえるのではないだろうか。

 

これから先の時代、いかに自分の手で自分の世界を豊かにするかという点や、どういった面で自分の生きていく場所を選ぶのかということはどんどん多様性に富んでいく。

自らの手で自らの世界を楽しむために、「歴史」というコンテンツを活用して土地に愛着を持つという視点は、自分が生きていく地域や世界のことを自分ごととして捉え直すきっかけともなりうるだろう。愛着を持てば、その土地に人は「帰る」ことができる。「帰る」場所があるということは、人を安堵させ、時に強くもするだろう。

 

出身地や生まれ育った土地だけではなく、日本全国や世界中に「帰る」場所を持つことは、人生における安全基地を増やすことや豊かさを増やすことにも通じるのかもしれない。

少子高齢化が進み、いずれは東京でさえ過疎化するといわれている昨今、未来を見据えて過去を学び、自分にとっての帰る場所を増やす方法を知っておくということはひとつの生き抜くための知恵となる。さらに、今見えている出来事に対して「なぜ」を問い想像する力を加えれば、わたしたちが生きていく上で出会うさまざまな出来事に対しても、その根底にある原因や理由を自ら探し出し、把握し、対処できる人間として歩んでいくことができるのかもしれない。

 

 

他にも生き抜く知恵の実験室WEELでは動画配信など様々な取り組みを滋賀県長浜市さんと行なっております!ぜひ下の画像をクリックしてご覧ください!

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