最終更新日:2022/09/02 (公開日:2020/06/29)
大切なのは実行できるBCPなのかどうか|NECグループ
災害が起きた時、あなたは仕事に行きますか?行きませんか?
自宅での防災は考えたことがある方は多いかもしれません。
しかし、自宅より長く過ごす職場での被災や被災時の仕事について考えている方は多くありません。
そこで今回は企業自身で防災対策をしているNECさんに防災意識と防災に対してどういった取り組みをされているのかをうかがってきました。
BCMSの取り組みは政府からの勧奨がきっかけ
NECグループさんでは2005年よりBCMSの整備を開始されています。
BCMSとは
BCMSとは事業継続マネジメントシステムのこと。
地震や火災といった脅威が発生した際に事業機能の継続を実現することを目的に、事業継続計画(BCP)を策定し有効に維持・管理すること。
そのきっかけは政府からBCP策定のモデル企業として勧奨があったことなんだそうで、ここから整備を始められたとのこと。
お話を伺った堀格さんによると、社内だけではなく社外でも防災に関する活動を行っていると
- 対策をしたいが何をしていいかわからない
- 災害があった時にどう動いたらいいのかわからない
といった声を聞くとおっしゃっていました。
事前の防災対策は必要だという意識はあってもなかなか実行できない現状が多くあることが推測されますね。
重要なのは実行できるかどうか
世の中には、その必要性に駆られてBCPを作成している企業も多くあります。
しかし実際に被災した企業3000社に作成したBCPは役に立ったかと聞くと、「役に立ったのかどうかがあまりよくわからない」という回答が多かったそうです。
BCPを作成したにも関わらず活用できなかった企業・団体等ではBIA(ビジネスインパクト分析)を十分にしていなかったことからBCPが機能しなかったと考えられています。
BIAとは
BIAとはビジネスインパクト分析のことで、事業を構成する業務やシステムが止まってしまった場合の事業への影響や被害の大きさを評価することをいう。
災害で発生する被害は毎回同じというわけではありません、そのために被害想定では最悪を考える必要があるとのことでNECグループさんでは事業継続を考えるべき結果事象を地域ごとに社内で共通化されているんだそうです。
そのため、BCPは実際にできるかどうかといった実効性のあるものを目指したとお話し頂きました。
例えば災害が起きた際の社員の行動を事前に決めたとしても、実際に災害が起きた時に全員が出社できるわけではないことから、事前に決めた災害時対応を遂行できなかった他の企業の事例を参考に対応策を考えた、といった話がありました。
また、内閣府からは震度6強の地震を対象に事業継続を進めるよう推奨があったそうですが、社員の事も考えて様々な災害時の社会インフラ状況を想定されたんだそうです。
想定した内容は
- 災害が起こった場合→電気・ガスはどのくらいの期間止まるのか
- 社屋は災害に耐えられるのか
- 社員はどの程度業務できるのか
- 地震の揺れでオフィスのIT機器は飛んでしまわないか
などが挙げられ、事前減災対策を必要とするものなどNECグループで400以上のBCPを作成されています。
周囲で何が起こるのか、弱みはどこにあるかを考えて対応し、訓練を重ねて検証修正を繰り返した結果、政府の勧奨から事業継続の構築まで2年かかったんだそうです。しかし時間をかけた分、政府から勧奨された複数企業の中で実効性は1番高いものができたと自負している、とおっしゃっていました。
社員を守るための将来の投資
ここまで詳細にBCPを作成するには時間も費用も掛かってきます。
NECグループさんでは、これは「社員を守るための将来の投資」であると考え方針を決めて作成をすすめてきたといいます。
ここまでお話して頂いた防災BCPの運用は実用性を念頭に以下のようにすすめていきます。
- 被害想定…危機を想定しインフラ被害を想定
- 方針策定…活動方針を作成
- 組織体制…災害対策組織を構築し役割を明確化
- 減災対策…事前にできる対策を実施
- 初動計画…発災直後のオペレーション計画構築
- 行動容量…時間別行動要領を作成
- 訓練と演習…定着施策を実施
特に社会インフラを担当しているNECグループさんでは、初動を早くするために被災していない人に動いてもらうようにしているんだそうです。
これは方針として社内の共通認識として共有され、訓練を行うことで定着させていったんだそうです。
こうすることによって、災害時に社員が自ら考えて行動する仕組みづくりに成功したといいます。
組織体制は、以下の3つに分けてあります。
- 経営機能を継続する「中央事業継続対策本部」…経営機能の維持
- 個別事業の継続を行う「事業部門別事業継続対策本部」…事業の復旧活動
- 生活、地域の継続をはかる「事業場別災害対策本部」…地域との連携、安否確認など
これによってすべきことが明確になり対応がスムーズにできているそうです。
減災対策には
- 床免振や転倒防止対策
- 情報を集めるシステム
- 備蓄(食品・ドライシャンプー・ライトなど)
組織ごとに担当する人を置き各組織で対策を行っています。
また、情報共有をシステム化しておくことで地域との連携も期待されるんだそうです。
マニュアル通りに動いてはいけない
初動計画・行動要領など、行動計画を定めてはいるものの災害の状況は様々なので必ずしもマニュアル通りには動いてはいけない、と注意喚起をしているといいます。
その理由は「自律的に行動することを求めているから」なんだそうです。
マニュアルはあくまでも基本的なルールとして認識し、災害時は臨機応変に行動してもらうことを理想としているとおっしゃっていました。
しかし、社員はこれでも指示を待ってしまうことがあるため、災害対応現場が判断することを非被災地の対策本部は批判してはいけないというルールを作って現場の判断で動くことが出来る仕組みを作ったんだそうです。
東日本大震災のときは東北のほとんどの工場を3日後の3月14日から稼働させることが出来たらしく、自律的に行動することの重要さが伺えます。
また実際に動いてから事後報告で改善していくことで次の現場に活かしているそうです。
NECグループさんでは各事業部門別にBCPを作っているものの、全体としては統一されたBCP(ホロン型BCMS)になっているため被災した際にも自律的で臨機応変な活動を可能にしています。
防災訓練ではヒト・モノ・情報が大切
NECグループさんが防災訓練の中で大切にしているのは「ヒト・モノ・情報」の3つなんだそうです。
これらが機能しないと、事業継続の実効性を阻む大きな要因になるんだそうです。
ヒト
人々が災害の起こることを危惧していないため、対策を重要視しないことも大きな課題なんだそうです。
これは実際の災害の時に、避難警告がでていても避難しようとしない人が多かったために被害が拡大してしまったという事例が残っていることからも問題であることが分かります。
そこでNECグループさんは現実が見えるような訓練を実施していったそうです。
その例に挙げられたのはWeb訓練で、ゲーム形式にすることによって家族でも楽しめて考えることのできる訓練もあるといいます。
勤務者一人一人が災害を自分事として考えられる訓練を重ねることで、自助を優先として動くことの重要性を伝えているそうです。
企業で言うと、自社の対策と比較する機会を設け、また見直す機会となる他社との合同訓練を実施されています。
モノ
災害時にモノが被害を受けてしまうと復旧まで多大な時間がかかるため事前の対策が必要となってきます。
費用がかかることから対策をしないこともありますが、これを怠ると再開に時間がかかってしまうのでしておくべき対策だとおっしゃっていました。
出来る対策としては
- 留め具
- ジェルマット
- 非常用発電機
- 変電施設の対策
など簡単に始められるものもあるので、できることから始めることが減災につながっていくそうです。
情報
情報の共有システムも事前に整備しておくことが重要になるといいます。
その中でも「安否確認」や「被災情報共有」の場面ではNECグループで構築したシステムが活躍しているそうです。
安否確認というと、どこか指定の場所に集まって点呼をするというイメージがありますが、NECの本社や大規模な事業場ではその必要はなく、近くのカードリーダーに社員証をタッチすることで安否確認を行えるようにしているんだそうです。
社外にいる場合でも、メール、Webで安否登録や部門の安否登録状況の確認が行えるようにされています。
自分から入力するように!と共有しておくことで、確認の連絡をするなど無駄な通信をおさえるようになっています。
初動対応のルール化
災害が起こった際の初動対応は全社対策本部・現地対策本部・各事業を継続する現場それぞれで設定されているんだそうです。
他にも、対応する業務を分担してあるためスムーズに対応できるようにされています。
先述したように自分で出来ること、今いる人たちで出来ることは何かを考える訓練を行うことで自律的に現場が動くことが出来るように事前対策をしているんだそうです。
一通りの基本となる共通ルールはあるものの、地域、現場それぞれで違う部分は任せていることが自律性を高めているとお話して頂きました。
各支社との情報共有
NECグループでは被災情報や支援すべき内容などの情報を収集するために衛星携帯電話や、無線などを設置し、災害時に非被災地の対策本部で情報を集めているんだそうです。
衛星電話は設置されているのですが、災害時に現地に連絡をすることは絶対にしないように徹底しているといいます。
この理由は、対策本部から連絡してしまうと現地の動きが止まってしまうからなんだそうです。
そこでNECグループさんでは基本的には現地からの連絡を待つ、あるいはカメラ等を活用して被害状況を把握できるようにしているんだそうです。
収集した情報(食料の量・被害状況など)は、文字ではなく、マップや表など一目で理解できる形でシステムに入力する方法をとっていて、部署によって知りたい情報が違うのでシステムで制御してスムーズに情報共有ができるようになっているんだそうです。
自発的に現場から情報を発信する必要があるため、中には情報が流れてこない地域もあるんですがこれはそれだけ被害が大きいと判断して全社対策本部等、被災していない地域の対策本部が自主的に動くようにしているとおっしゃっていました。
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まとめ
NECグループさんは避難しなくて済む拠点・工場となるように事前の減災対策をすることを考えているとおっしゃっていました。
人は実際にやってきたことしかできないので、ルールを分かった上で自律的に動けるようになってもらうことを目的にPDCAをまわしブラッシュアップしているそうです。
BCMSが社内で整備されている企業が少ない中、ここまで実現性にこだわって整備されていることに大変感銘しました。
BCPとは事業継続の一つであり、減災対策をしておくことと災害がおこった時に人が動くことができる仕組みを作っておくことが大切であってBCPの有無が重要というわけではないというお話が印象に残っています。
NECグループさんでは、自治体や企業・団体向けにBCPを作ったり減災対策をされたりされているらしく今後この事業継続計画のモデルが拡散することが期待されますね。