公開日:2022/12/19
減災と防災の違いとは?減災の取り組みや家庭でできることもご紹介
島国という風土、さらに四季もある日本は、昔から地震や台風、噴火や豪雪などいろいろな災害に見舞われてきました。
災害を経験した日本人は、現在でも未然に災害を防ぐためにいろいろな手段や方法をとる「防災」の取り組みも同時に行っています。
ところが、近年大規模な災害が発生するようになり、日本人の行う防災の取り組みだけでは、防災を防ぎきることが難しくなってきました。
これらの流れを受けて、近年防災とともに広まってきた災害への考え方に「減災」があります。
とはいえ、「防災」と「減災」の違いが分からない人や、具体的に減災とは何を指しているのかが分からない、という声も少なくありません。
ここでは、減災とは何かの概要についてと、防災との違い、さらに実際に行われている減災への取り組み事例、そして今後やるべき減災への取り組みについてまとめました。
防災と同時に減災の取り組みも行っておきたい人や、家庭や企業の災害対応力をさらに高めておきたい人も、ぜひこの記事を参考にいつやってくるか分からない災害への備えに役だててください。
減災とは?防災との違いもあわせて解説
減災とは災害が起きたときに、被害を最小限に食い止めるためにあらかじめ行っておくいろいろな取り組みを指します。
とはいえ、減災という言葉に馴染みのない人も多いでしょう。
まずは減災について解説します。
減災と防災の違いとは
減災と似た言葉に「防災」がありますが、防災と減災の違いについてここで解説しておきます。
前提として、防災と減災の違いは「災害発生の有無」です。
防災は「災害を防ぐ」ことで、災害の発生そのものを防いだり、災害発生で被害が出ないようにしたりする取り組みのことです。
つまり、防災は「災害そのものの発生を抑止する」という意味も含まれているのです。
一方で減災は、「災害を減らす」と書きます。
つまり、災害自体が起きるのを防ぐのではなく、防ぎきれない災害が発生した場合、その被害を最小限に食い止めるための取り組み全般を指すのです。
火災を例に挙げると、「火器のあるものを置かない」など、火災の発生そのものを防ぐのが「防災」です。
「スプリンクラーをつける」「防火カーテンをつける」など、火災の発生を前提として、そのときの被害を最小限に食い止めるための取り組みが「減災」にあたります。
減災に取り組むきっかけ
元々防災に対する取り組みは日本の家庭や自治体、企業などですでに多く行われていました。
ところが、防災では防ぎきれない災害が多発するようになったため、災害そのものを防ぐという考え方とともに、防ぎきれない災害をある意味受け入れつつ、被害を最小限に抑えるための減災という考え方が重要視されるようになったのです。
減災という言葉と考え方は、京大名誉教授河田惠昭によって提唱されました。
あらためて減災が着目されるようになったきっかけが、甚大な被害を出した阪神淡路大震災です。
阪神大震災での主な被害状況の原因が、以前の耐震基準で建てられた古い建物による倒壊です。
これを踏まえて、再び大きな地震が起きても建物が壊れないように、耐震補強を行っていくのが「防災」の取り組みです。
ところが、ひとつずつ建物に補強工事を行っていくのは時間も費用も莫大にかかるでしょう。
そこで、全体的な耐震補強をして「防災」をするのではなく、各世帯、ひとりひとりがまず自分の命を守るための行動をする「減災」が注目されるようになったのです。
減災は、東日本大震災でもさらに重要視されるようになりました。
岩手県宮古市田老地区に建設されていた世界一クラスの規模を誇る大防波堤、通称「万里の長城」は、まさに津波への防災シンボルです。
ところが、東日本大震災による津波で決壊し、壊滅的な被害となりました。
この出来事は「人間の技術力が進歩しても、自然の力である災害は完全に防げない」ということを改めて私たちに知らしめる結果となり、減災の重要性が再認識されることになったのです。
減災は自助・共助が重要
災害発生時、命を守るための行動や助け合いには、自分自身の命を守る「自助」、家族や近所の人など周りの人とお互いを助け合うのを「共助」、自治体や国などの公からの援助を受ける「公助」があります。
このなかでも、減災への取り組みの中心になっているのが「自助」と「公助」です。
さらに、自分の身が安全でないと、当然周りの人を助けることができません。
そのため、自分の命を守るための取り組みである「自助」を行い、自分の安全を確保したうえで、「共助」を行うのが、減災の大きな柱であるのを覚えておきましょう。
今日からできることを含めた減災への取り組み
減災は災害発生時に被害を最小限に食い止めるための取り組み全般を指しますが、これは災害発生時だけでなく、災害発生前、災害発生後の行動すべて含まれています。
減災でやるべき取り組みである「減災行動」を、災害発生段階別にみてみましょう。
【発災前】家庭で取り組む減災
災害が発生するまえに行う減災行動は、常日頃から災害に対して備えるべき行動を指します。
具体的な災害発生前の減災行動が以下の通りです。
- 地域で危険な場所を知っておく
- 家の耐震設計や家具の固定、避難経路の確認
- 災害の怖さを知る(地震や水害、土砂災害などが起きたらどうなるかを学ぶ)
- 災害への備えを行う
- 家族と災害発生時にどのように連絡をとるかなど確認しておく
- 日頃から近所の人と声をかけあっておく
災害発生前の備えである災害発生前減災行動は、自助と共助のうえで重要な行動ばかりです。
それに加えて、今日からできる減災行動もたくさんあります。
たとえば、自宅や勤務先の近くに危険な場所がないかを確認し、災害発生が予測されるときには近づかないのも減災行動に当たります。
反乱危険水域に近づく可能性のある川が近くにある場合は、台風時に避難場所へいつでも行ける準備をしておく、津波の浸水域が自宅近くまたは自宅や勤務先が該当する場合は、地震後避難できる高台などを探しておく、などが該当します。
さらに、共助の取り組みとして重要なのが、普段から自分の周りにいる人と声をかけあっておくことです。
家族とは災害発生時の連絡方法や集合場所を話し合っておく。
近所の人とは普段からお互いに声をかけておく、地域の防災活動や訓練などに参加する、などです。
災害発生前の行動は、いつでもできるものもありますし、何度行っても不足する、ということはありません。
防災の取り組みと同時に、減災行動も始めて見ましょう。
【発災時】家庭で取り組む減災
災害発生時にすべき減災行動は以下の通りです。
- それぞれの災害によって適切な行動を把握しておく
- 家族との連絡は災害用伝言ダイヤル171などを利用する
- 学校や企業で被災したら担任の先生や防災担当者の指示にしたがうこと
- 自分が保護者の立場の場合、学校や幼稚園、保育園などと災害時の引き取り方法について確認し、実行する
災害発生時、と言っても日本で起きる可能性のある災害は種類が多く、それぞれで適切な行動が異なります。
たとえば地震のときは机などの下にかくれて頭を守りますが、台風や豪雪などのあらかじめ予測できる災害の場合は家の補強をしておく、飛ばされやすい物を片付けておく、に加えて災害発生時は不要不急の外出を避けるのが適切な行動になります。
あらかじめ災害の種類によって適切な行動を学んでおき、災害発生時に活かすために訓練に参加するなどの減災行動を行っておきましょう。
ほかにも、家族との連絡の取り方や、子どもの引き取り方なども、災害発生前の減災行動とつながる部分が多いです。
【発災後】家庭で取り組む減災
災害発生後、自分の身の安全の確保ができたら、身の回りの人と助け合う共助の減災行動を中心に行います。
- 正しい情報を手に入れる
- 周りに負傷者などがいれば互いに助け合う
- 適切な場所へ避難をする
人の命を助ける、助け合う共助は、自分の命が安全であってこそ初めて行えます。
適切な行動のために正しい情報を手に入れたり、適切な場所へ避難したりが優先です。
その後、周りの人と助け合う行動を行いましょう。
減災行動で事前取り組みや、やるべきことは以下の記事でくわしく解説しています。
今日からできる減災行動を知り、災害への備えや命を守る行動につなげましょう。
実際の取り組みから減災行動について
減災への取り組みは、個人はもちろんいろいろな企業、施設、そして自治体でも行われています。
「公助」の面が強いイメージがあるかもしれませんが、団体や施設、自治体の減災事例を学ぶのは自助や共助につながる取り組みのヒントとなるほか、何より日々の防災や減災への意識を高めるうえでも重要です。
以下の記事では、実際に東日本大震災を始めとした被災経験を活かした減災への取り組みを行っている、宮城県仙台市の事例を紹介しています。
あわせて、市民である自分自身が今日からできる取り組みも紹介していますので、日ごろの備えにも役立ててください。
こちらの記事では、減災の意味に加えて、大阪府、名古屋大学減災連携研究センター、神戸大学減災デザインセンター(CResD)の減災取り組み事例を解説しています。
今後やるべき減災への取り組みとは?
日本のインバウンド需要の高まりや、2020年東京オリンピックの開催を受けて、外国人観光客が増加傾向にあります。
さらに日本に仕事や技術研修目的で訪れる、外国人労働者や実習生も増加しました。
今後増加する外国人需要をふまえて、減災も英語を始めとした外国人への減災取り組みも行う必要があるのです。
今後私たちが行うべき、外国人を含めた減災取り組みは以下の記事でくわしく解説しています。
減災は防災と同じく日本にとって必須の取り組みである
減災の概要に加えて防災との違い、実際に行う減災行動、減災事例、今後行うべき英語を始めとした外国人への減災取り組みについて紹介しました。
技術が進歩しても、災害の発生自体を完全に防ぎきることはできません。
豊かな自然に恵まれている日本は、自然から享受する多くの恵みがある反面、災害とも隣り合わせです。
日本という風土とこれからも共存していくためにも、私たちは防災と減災両方の意識を持つことが重要と言えるでしょう。
大学時代に災害救援系NPOに在籍し、多数の災害救援活動を経験。卒業後は防災のベンチャー企業でECサイト/オウンドメディアの運用を請け負う。被災地での災害救援活動を行なったり、居住地の防災対策コミュニティに参加し、日々防災と向き合っている。