最終更新日:2022/09/02 (公開日:2019/09/07)
【BCP対策事例集】BCP対策マニュアル作成に役立てよう
いつ起きるか分からない災害や事故、サイバーテロなどのリスクに対して、事業を停止しないように、または事業をできるだけ早く復旧させるために策定しておくのがBCP(事業継続計画)です。
近年のビジネスでは、サービスや商品が最終顧客に提供されるまでに、多くの企業や組織が関わるようになりました。企業としては自社事業の停止が多くの企業にも影響を及ぼすことから、事前にBCPを策定しておく必要性が高くなりました。
しかし、いざBCPを策定しようとしても、具体的にどんな対策を考えればいいかが分からない、ということもあります。
そこで、実際に発動されたBCP対策の事例を紹介していきます。
これからのBCP対策の策定や、すでに策定したBCPの改善に役立ててください。
ルネサスエレクトロニクス社のBCP対策事例
半導体製造業のルネサスエレクトロニクス社は東日本大震災発生時に茨城県の工場が被災、3ヶ月間の操業停止を経験しました。
この教訓を踏まえてBCPを策定、実行した事例を紹介します。
2016年4月に発生した熊本地震により、同社の川尻工場が被災。
地震直後から策定済みのBCPの手順に沿って従業員の安否確認や被災状況の確認を行いました。
熊本地震発生後、1週間で「再開目標」の時期を、1カ月間で「完全復旧」を目指すと定め、川尻工場の復旧状況を8回にもわたるニュースリリースで発表しました。
この複数回のニュースリリースの目的は、川尻工場との取引先に対し、復旧を待つかほかの調達先を探すかの配慮のために行われたのです。
BCPの初動対応をスムーズに行ったことと、自社だけでなく関連企業の調達停止を防ぐ範囲まで作用したことで、BCPの目的のひとつである事業全体の停止を防いだ事例であると言えるでしょう。
三菱電機のBCP対策事例
三菱電機のBCPは、生産拠点である工場が災害で被害を受け、生産の継続が困難になった場合でも、生産拠点を移すことで、生産を止めないことを目指す「サプライチェーンにおける事業継続」を掲げているのが特徴です。
三菱電機は、熊本地震のさい2拠点が被災しました。
早期の拠点復旧のために技術者が本社から応援にはいり、復旧をめざしました。
これと同時に、拠点が被災しても生産を止めないように、同社の県外にある生産委託先の工場の生産量を増やし、被災2拠点で不足している生産分を充足させたのです。
日本国内における製造業では、業務の効率化と安定的な供給のためのサプライチェーン構造が主体となっています。
そのため、1拠点で生産が止まってしまうとそのほかの供給が間に合わず、そのサプライチェーン全体の事業停止となるリスクもあるのです。
だからこそ、三菱電機のような自社の事業停止とともに、サプライチェーン全体の停止を防ぐためのBCPの取り組みが重要であると言えるでしょう。
北良株式会社の災害への対策事例
岩手県でガス業を営む企業の北良株式会社の事例を紹介します。
家庭用、業務用、そして医療用と幅広い用途で使われるガスの製造や輸送、販売から設置、保守点検まで行う地域密着型のガスサプライヤーです。
BCPそのものの策定は行っていませんが、徹底した改善行動を日常的に行うことで、常日ごろから災害に対する対応力を高めています。
2011年3月11日に発生した東日本大震災の経験が、現在の同社の取り組みにつながっています。
地震発生後から、酸素吸入が必要な在宅患者や医療機関に対して酸素ボンベを提供し続けました。
現在同社は約1500人の在宅患者に医療機器の提供を行っていて、そのうち500人が酸素供給装置を使用しています。
東日本大震災の経験を踏まえ、あらかじめ在宅患者に対して災害用の大型酸素ボンベを設置しておくのと、酸素ボンベが必要な患者を症状の重篤度によってランク分けし、酸素ボンベの提供優先順位をつける取り組みを実施。
実際に災害が発生した場合で重篤患者が病院などに移動できない場合には、同社が発電機と3日分の燃料となるガスボンベをセットで送り届ける仕組みを作り、災害に備えています。
また、物流やライフラインも寸断された東日本大震災時には、ガソリン不足で車両が動かせない、ということが多く起こりました。
その際にも、同社はLPや軽油燃料の車両があったためガソリンがなくても車両を動かし、酸素ボンベの提供を始めとした事業の継続に結び付た経験があります。
これを踏まえて、現在でも同社ではLPガス燃料の車両、またはLPとガソリン両方で走るバイフューエル車を多く配置するなどの事前対策を行っています。
日々の災害に対する取り組み事例も紹介します。
同社では毎日朝礼時に、3つのカテゴリに分かれたクイズを出題し、従業員間での業務や災害への意識対策に役立てているのです。
そのなかで、安全対策に関するクイズでは災害対応に関する問題が必ず出題されます。
過去の経験を踏まえた対策とともに、できることからコツコツと日常的に災害対応力を高めている事例です。
株式会社生出のBCP対策事例
東京都にあり、包装資材や緩衝材の製造を手掛ける株式会社生出は、直接企業が災害や事故などの危機を経験したのではなく、社会情勢や周囲環境を反映したうえで、BCPを策定した事例があります。
2009年に発生したインフルエンザ大流行のパンデミックが、同社のBCPの策定を検討するきっかけです。
パンデミック自体は短時間で終息したため、そのときBCPの策定には至りませんでしたが、商品の取引先の製薬会社から、インフルエンザなどの感染症におけるパンデミックに対する事業継続体制の構築についての要請があったため、BCP策定へ乗り出しました。
ちょうど同時期に東京都のBCP策定支援事業の募集があったため応募し、同社のBCP策定へとつながりました。
BCPの策定目的としては、安心して働ける会社づくり、安心して取引できる会社づくり、継続的改革が進む組織風土をつくることを上げています。
現在は、中小企業なら事業継承マネジメントシステムの国際規格を認証取得しました。
まず、立川断層という活断層が会社近くにあるため、地震を想定したBCPを策定しました。
地震において危険箇所の把握、商品や資機材の転倒や落下を防止するための対策を行うなどの基本的な防災対策とともに、自社が被災しても代替生産ができる事業継続体制を整えています。
また、BCPの実効性を高めるために、社員一人ひとりの意識付けとしてBCPポケットマニュアルや大地震初期対応カードの作成と配布しました。
防災訓練やBCP訓練では、浮き彫りになった問題点や改善点を壁に張り出し、従業員全員が確認できるなどの取り組みを行っています。
藤崎のBCP対策事例
2019年で創業200年を迎える、仙台の老舗百貨店である「藤崎」の、小売業から見る事例を紹介します。
東日本大震災発生時、仙台駅前にも近い仙台市青葉区にある本店が被災しました。
災害時は、陳列棚から離れるようになど従業員が客に的確な指示を出したことで、ひとりの負傷者も出さなかった事例があります。
これは、年に2回防火、防災訓練を実施していること、非常時にはエレベーターを使わず非常階段を使う、非常階段は陣俗な避難のために通常のビル非常階段よりも広めに設計されている、などの日ごろからの防災への取り組みが功を奏した結果です。
さらに、藤崎の従業員のなかには宮城沖地震や岩手・宮城内陸地震、チリ沖地震による津波などの被災経験を持つ者も多くいるため、それぞれの被災体験が社内で伝承され、従業員の災害時における適切な行動につながりました。
被災翌日から、店舗が使えないため路上販売を行うことで事業を継続。
レジが使えないため、100円や200円などおつりが出ない料金設定などの工夫を行いました。
一方で従業員のなかで帰宅困難者が出るという問題点が浮き彫りになったため、BCPマニュアルにて帰宅困難者を収容するための食料や寝具の備蓄、徒歩による複数の帰宅ルートの検討などの改善を行いました。
また、県外の百貨店と被災によってお互い商品が足りなくなった場合、商品を供給しあうという協定を結び、事業継続に結びつけています。
「月間総務」のフリーディスカッションによるBCP対策事例
総務部門の専門誌「月間総務」が主催する総務担当者向けフリーディスカッションで「BCP対策」をトピックスで取り上げた結果、数々の中小企業でのBCP対策が出ました。
自動販売機のベンダーと契約を結ぶ
社内に設置している自動販売機のベンダーと、BCPに関する契約を結んだ事例です。
自動販売機内の商品の単価を定価で販売する代わりに、防災用の水やお菓子の提供を受ける、非常用の200L分の水を500mlのペットボトルとして常備、期限が来たら無償で交換などの契約を結び、防災用品の確保につなげています。
安否確認システムをメールからクラウドへ切り替え
災害発生時に指示や今後の対応などを記載した社内一斉メールを送信しても、災害時は送信できなかったり、読めなかったりする場合があります。
そのため、社内の安否確認システムをメールからクラウドへ切り替えた事例です。
なお、すでにクラウドへの切り替えを行った企業が、従業員の家族の安否確認ができるシステムを追加した事例もあります。
非常食をおいしいものにして、賞味期限切れ前に社員へ配る
企業の災害時対応として非常食を備蓄しているところも多いですが、賞味期限が切れてしまうこともあり、管理にも入れ替えにもコストがかかってしまいます。
そのため、非常食を普段でも食べられるおいしいものにして、賞味期限切れ前に社員へ配り、切り替えコストを低減した事例があります。
備蓄としてウォーターサーバーを活用
今までコーヒーメーカーのみを置いていたのを、新たにウォーターサーバーを設置。
災害用の水やお湯として活用できるだけでなく、コーヒーメーカーへのコスト削減にもつながった事例があります。
BCP対策事例をBCP策定の参考として活かそう
BCP対策は、企業の規模や業種によっても対策方法の中身が異なってきます。
とはいえ、敷居の高さやノウハウのなさ、コストがかけられないなどを理由でBCP対策を怠るのが企業としては一番危険と言えるでしょう。
これまでBCP対策事例のなかでも、まずできる範囲で対策を行った事例はたくさんあります。
BCPはできる範囲で対策し、実践から改善のサイクルを踏むのが重要です。
他社の対策事例を参考にできるBCP対策から始めてみましょう。
BCPに関する記事はこちらもご覧ください。
BCPの発動フローのスタート地点「初動対応」をスムーズに行うには